ついに限界が来た
初めての現象に戸惑う。酒とタバコを買い気分良くコンビニを出て、自宅のマンションに着いたところまではいつも通りだった。問題はその先の階段で起きた。

僕はマンションの階段を一段も登れなかったのだ。
足が上がらない。この先に幽霊でもいるんじゃないかと思うほど、体が上るのを拒絶している感覚だった。少しパニックになってコンビニ袋片手にしばらくその場に立ち尽くす。この建物にエレベーターはない。それに部屋は4階、今の自分が気合いで上り切れるとは思えなかった。
僕は階段前に突っ立ったまま自分の体に何が起きているのかを考えた。思い当たる節がある。
ここ一週間、納豆巻き2本しか食べていなかった。
前からよく数日食事を忘れて動けなくなることはあったが、階段を上れないほどではなかった。今回ばかりは本能的な危機を感じる。すぐコンビニに戻り、ツナマヨおにぎりを買って店を出るやいなや低血糖値でアルコール中毒者のように震えた手でおにぎりのセロハンをめちゃくちゃに引き裂く。
おにぎりは1分も経たずに消えた。二口だった。
よく噛まずに飲み込んだ米がぐりゅんと音をたて喉を通った瞬間、体が急に軽くなった。今なら階段を上れる。
再びマンションに戻った僕は階段を二段飛ばしで4階まで駆け上った。
そんなことがあってから、食事をちゃんと摂ろうと1日2食食べるようにした。けれど長くは続かなかった。原因は食べ物に興味が無いせいだ。
飲食店でメニューを見た際、美味しそうじゃなくて綺麗だとか茶色いとかそういう感想になる。食べたいという感覚が基本薄い。加えて咀嚼が疲れるとまで思う。
次第に階段の時の危機感は薄くなり気持ちは後ろ向きになっていく、一方身体はサプリで問題なく生きていた。

誰にいただきますが届くのかよくわからない食生活だけど、楽だしいいやと諦めていた頃
思わぬ転機が訪れた。
ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
任天堂より2017年3月3日に発売されたオープンワールドアクションアドベンチャーゲーム。魔物を狩ったり料理したり食べたりできる。
僕はこの作品のある料理に惹かれた。

それがマモノ料理。
戦闘で倒した魔物の角や内蔵を調理してできる料理だ。作中では回復アイテムとして登場する。
ゲームの中ではあれど初めて料理を美味しそうだと本気で思った。僕の食生活においてこの上ない革命だった。マモノ料理が映ったシーンで画面止め、舌の裏側あたりから湧いてくる唾液に感動しながらコントローラーをゆっくり置く日々が続いた。
食べたい
なんとしててでも
それなら似たビジュアルの料理をつくって再現すればいい。僕は思った、違う。このゲームの料理が食べたいんじゃなくて本物の魔物料理が食べたいんだ。
でもこの現実に魔物なんて存在しない。そんなのはわかってる。
ならば魔物を生み出すまで。
魔物を

生み出そう。
なんでも人の味覚は曖昧な器官で、勘違いや思い込みでけっこう操作できるらしい。催眠術でワサビが甘くなるとか、どんなにうまいコーヒーでもりんごジュースと間違えて飲むと不味く感じるとか。
要は強く錯覚できれば魔物の味を楽しめるのだ。
生きた魔物を作ることはできないが、食材と化した魔物なら作れそうだと思い目についた食材を買ってみた。

既に魔のポテンシャルを持つ食材もあった。黒舞茸に何を合成すれば黒舞茸(真)になるのかを知りたい。
普段料理なんてしない。スーパーの買い物加減がわからな過ぎるせいでこんなことになった、とても一食分を作る量ではない。珍しく重いスーパーの袋に、人間らしくなれた気がした。高揚した気持ちを表すかのように冷蔵庫がパンパンになる。

すぐさま買ってきた食材を参考に食べたいと思うオリジナル魔物料理を思案した。
オリジナルでなければならない。
ゲーム通りすぎる料理だと二次創作感がでて結局本物の魔物だとは思えないからだ。でもバジリスクの毒煮込みスープは結構寄った。

せっかくなのでフルコースにしたい。普段料理をしないからこそ想像は膨らむ。
調理で出来ないことがわからない。流石にこれは無理だろ、みたいな足止めしてくれる知識がない。もうすぐ三十路の自分、もう失ったと思っていた新社会人時代のなんでもできる精神が熱く蘇るのを感じた。
失敗するものだとしても引き下がりたくない。
前菜をつくる

前菜の人魚のカルパッチョをつくる。

まずはカルパッチョソースから
前に友人に説得されて揃えた調味料が役に立ったありがとう。画家という仕事柄、絵の具の計量に使っていた計量器がやっとそれらしい扱いを受けている。

普通の調味料を目の前に、これ普通に料理しているだけなんじゃないかと心配になってきた。

僕は魔物を料理している……僕は魔物を料理している……


出来上がったカルパッチョソースを青くする

オイルと色素が分離してヤバさを感じる。何を基準に料理の正しさを判断すればいいのかわからなくなってきた。


ウロコを再現するカブを切った。
包丁を扱い慣れていないせいで思ったより苦戦、失敗した切れ端はすべて後日味噌汁にしよう。

買っておいたブリをいったんソースをしいた皿に漬けて、ウロコを乗せ…………

バジルで飾れば…………

人魚の食材化 完了
これを盛り付ければ……
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カブを乗せた時点では不安だったが盛り付けでそれっぽくなってよかった。捕らえられるまでは海で暮らしていたであろう人魚を深い青のソースで表現できたと思う。まだ一品目だというのに疲労がすごい、この世すべての料理する人に尊敬する。
スープをつくる

つづいては、バジリスクの毒煮込みスープをつくる。

メインになるのはこの長なすだ。こやつにはバジリスクになってもらう。

まずは丁度いいサイズにカットする

全然平気!むしろウェルカムという方は続きをどうぞ
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次に格子状に切れ込みをいれていく。これが蛇らしいバジリスクのウロコになる予定だ。

この切れ込みをなすの紫の部分すべてにやっていく。これは期待できそう。

言葉を失う

バジリスク食材化 完了

あとは鍋にバジリスクと

トマト缶などいれる。紫キャベツ…邪悪な色だ。

それっぽい調味料で味付けして、そのまま具材に火が通るまで煮込む

煮えたら魔法で色を整えると

……バジリスクだ。もう君がなすだと言っても誰も信じてくれないね。
あとは盛り付ければ……
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もう少しビビットな紫にしたかった。けどこれはこれで邪悪。毒でぶくぶくした泡を表現するのに入れたマッシュルームは泡にこそ見えないがアクセントになった。バジリスクのウロコは大成功、ちゃんと気持ち悪い。
メインをつくる

やっとメインの魔物の心臓ステーキを作っていく。

まずは生肉にスパイスで味付けする

次に心臓にぴったりなサイズにカットして、草をそえて油をひいたグリラーに入れる。

焼き時間はよくわからないので様子をみながら

肉をグリルしている間に、心臓の皮をつくる

粉に牛乳と卵を入れ

魔法をかけて、ハンドミキサーはないのでフォークで混ぜる

焼くと皮膚感が強まっていい感じだ

クレープと同時に肉も焼けた。このまま食べろよという声が聞こえてくる。

変な気分になってきた。ステーキクレープは売っているのを見たことがある。僕は間違ってはいない。

あとは心臓の形を意識して肉を包んでいけばできるはず。

ただの心臓だこれ
あとは盛り付け、なんとかなるだろうか
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どこかの国なら捕まっているかもしれない。
心臓の切れ込みから流れているのはデミグラスソース。後ろに飾ったヤングコーンは、もがれた魔物のツノをイメージして置いてみた。
デザートをつくる

最後のデザート、炎龍のマグマプリンですが
結論から言うと

失敗しました。

使ったのはプリンキット、一番失敗しない調理のはずだった。

敗因はおそらく電子レンジ。説明書通りにプリン液を鍋で沸かして温めなかったのがいけなかったのだろう。
実食



あ、酒は普通に飲めるんだった。

いただきます
こうして並べるとちゃんとしたフルコースに見えてきた。あの白いのにどうしても笑ってしまう。





ごちそうさま
見た目の珍しさで食べてみようという気になったのは成功だ。
しかし思いのほか普通に料理だった。食べたことのある味、食感、匂い。食材から工夫すれば催眠術的なアレで感覚が変わると思ったけどならなかった。

やっぱり僕は食べ物を美味しく食べられない人間なのか。
ここまでしたのにか。足りなかったのかイメージが。
イメージ……?
森に来た




イメージが足りなかった。
そのせいで作った魔物料理が途中で普通の料理に感じたんだ。
だから……………

イマジナリー魔物を

狩る!

テレテレテレテレ♪



おしまい
自己紹介ページ含め、全ての記事の世界観が大好きです。
現実と空想が混じったような写真はとても素敵ですし、
内容もクスッと笑えるところと少しセンチメンタルな
気持ちになるところが絶妙なバランスで心地いいです。
今回の記事もBotwの良さとBOKuさんの良さが両方感じられて
とっても面白かったです!マモノ料理作りたくなりました。
これからも楽しみにしています。